確かな制作スキルを持っているのに、案件が安定しない。技術力やデザイン力には自信があるのに、いざ「仕事を取りに行く」となると手が止まってしまう──。フリーランスのエンジニアやデザイナーから、こうした声をよく聞きます。作る力があるのに、その力を届ける手前で止まってしまうのは、とてももったいないことです。
この記事では、営業に苦手意識を感じる方がいるのはなぜかを整理したうえで、売り込みに頼らずに制作スキルを仕事につなげていくための考え方とやり方を、中立的な視点でまとめます。「もっと押しを強くしましょう」という話ではありません。制作を大切にする方にも合った、無理のない営業の進め方を一緒に見ていきます。
作る力があるのに営業で止まってしまうのはもったいない
エンジニアやデザイナーの中には、制作そのものには時間と情熱をかけられるという方が多くいます。新しい技術を学んだり、細部までデザインを詰めたりすることは、苦にならないどころか楽しいと感じるという方もいます。一方で、「自分の仕事を売り込む」という場面になると、急に気が重くなる。そう感じる方がいるのは決して珍しいことではなく、自然な感覚といえます。
ここで大事なのは、営業が苦手であること自体を「弱み」だと思い込まないことです。営業が得意でないからといって、仕事を取る資格がないわけでも、フリーランスに向いていないわけでもありません。実際、紹介や受け身の依頼だけで一定期間まわってきた方も多いはずです。それは、提供している制作物の質が信頼されている証でもあります。
ただ、紹介や受け身だけに頼っていると、案件の波に左右されやすくなります。今ある力をもう少し届けられれば、収入の安定や、やりたい仕事を選べる余地が広がる。営業を「苦手だから避けるもの」ではなく、「作る力を必要としている人に届ける手段」として捉え直すと、向き合い方が少し変わってきます。
営業に苦手意識を感じるのはなぜか
そもそも、なぜ営業に苦手意識を感じる方がいるのでしょうか。理由を分けて考えてみると、対処の糸口が見えてきます。
ひとつは、制作と営業で求められる動き方が違うことです。制作は、じっくり考え、手を動かし、形にしていく作業です。一方の営業は、相手があって初めて成立し、こちらの都合だけでは進みません。普段の制作とは異なるモードへの切り替えが必要で、そこに負荷を感じるのは自然なことです。
もうひとつは、「売り込むこと」への抵抗感です。良いものを作ることに誇りを持っていると、「押し売りのようになりたくない」「自分から営業をかけるのは気が引ける」と感じる方もいます。作品で勝負したいという気持ちが強いぶん、自分から声をかけることに後ろめたさを覚えてしまう、ということもあるかもしれません。
さらに、対面や電話のやりとりに苦手意識を持つ方もいます。じっくり考えてから言葉を選びたいという方にとって、その場で即興的に話すコミュニケーションは消耗が大きい、ということもあります。これは性格の良し悪しではなく、得意な伝え方の違いです。テキストでなら自分の考えを的確に伝えられるという方は、むしろ文章を活かせる営業の形を選べばよいだけのことです。
苦手の正体が「やり方が自分に合っていないだけ」だと分かると、無理に苦手を克服しようとするのではなく、自分に合うやり方を選ぶという方向に進めます。
「売り込み」ではなく「相手の困りごとを解決する」発想に変える
営業への抵抗感を和らげる一番の近道は、発想を切り替えることです。営業を「自分を売り込む行為」と捉えると気が重くなりますが、「相手の困りごとを解決する提案」と捉え直すと、ぐっとハードルが下がります。
たとえば、あるお店のWebサイトが古く、スマホで見づらい状態だったとします。これに対して「私はWeb制作ができます、お願いします」と伝えるのは売り込みです。一方で、「スマホからの見え方を整えると、来店前に情報を探しているお客様が離れにくくなります」と伝えれば、それは相手の課題に対する提案になります。主語が「自分」ではなく「相手」に変わるのです。
この発想は、実は制作に取り組んできた方にこそ向いているかもしれません。エンジニアやデザイナーは、普段から「どうすれば使いやすくなるか」「どこに問題があるか」を考える機会が多いものです。その視点をそのまま、相手の事業や困りごとに向けるだけでよいのです。技術の押し売りではなく、課題を見つけて解決策を示す。これなら、誇りを持って提案できるのではないでしょうか。
最初の一通のメッセージでも、「貴社の課題はこうではないですか」という仮説を添えるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。売り込みの圧ではなく、役に立ちたいという姿勢が伝わるからです。
実績・ポートフォリオの見せ方も営業の一部
作る人にとって心強いのは、実績やポートフォリオそのものが営業材料になることです。言葉で自分を売り込むのが苦手でも、過去の制作物が代わりに語ってくれます。これは、形のあるものを作れる職種ならではの大きな強みです。
ただし、ただ作品を並べるだけでは伝わりきりません。見せ方にひと工夫すると、営業としての効果が変わってきます。意識したいのは次のような点です。
- 誰のどんな課題を、どう解決したかを添える:「制作物」だけでなく「ビフォー・アフター」や「狙い」を一言添えると、成果が伝わりやすくなります。
- 相手に近い事例を選んで見せる:飲食店に提案するなら飲食店の事例を、というように、相手が自分ごととしてイメージできる実績を前に出します。
- 得意分野を絞って打ち出す:「何でもできます」より「この領域が得意です」のほうが、相手の記憶に残りやすいこともあります。
ポートフォリオは一度整えておけば、繰り返し使える資産になります。営業のたびに言葉をひねり出さなくても、整理された実績を見てもらうことで、自分の力を過不足なく伝えられます。話すのが苦手と感じる方にとっては、ここに時間をかける価値があります。
紹介待ち(受け身)だけに頼る限界
エンジニアやデザイナーの多くは、知人からの紹介や、過去の取引先からのリピートで仕事を得てきたのではないでしょうか。紹介は信頼ベースで話が早く、質の高い案件につながりやすい、とても良いルートです。これを否定する必要はまったくありません。
ただ、紹介や受け身の依頼だけに頼ることには、いくつかの限界もあります。まず、自分でコントロールできないことです。紹介はいつ来るか分からず、来ない時期が続くと収入が不安定になります。次に、案件を選びにくいことです。来たものに対応する形になりやすく、やりたい仕事や得意な領域に寄せていく余地が小さくなります。
つまり、紹介を受け取る入口は持ちつつ、それとは別に「自分から動いて案件を作れる」ルートも持っておくと、波に強くなります。両方を備えておくことで、忙しい時期は紹介で十分まわし、手が空いた時期に自分から声をかける、といった調整ができるようになります。受け身の良さを残したまま、能動的な選択肢を一つ加えるイメージです。
制作を大切にする方におすすめの営業のやり方
では、無理なく続けられる営業とは、具体的にどんなやり方でしょうか。こういうやり方も向いている、という進め方を、いくつか挙げてみます。
まず、フォームやSNSのメッセージを使った非対面の営業です。問い合わせフォームやSNSのダイレクトメッセージから、相手の課題に対する提案を送る方法です。これなら、その場で即興的に話す必要がなく、自分のペースで言葉を選んで届けられます。文章で考えを伝えるのが得意という方にとっては、むしろ力を発揮しやすい形です。
次に、少数に丁寧に向き合うことです。大量に送りつけるのではなく、相手の事業を見て、その人に合った提案を一通ずつ作る。制作で大切にしている「丁寧さ」を、そのまま営業にも持ち込むやり方です。一通あたりの密度を上げれば、数は少なくても反応につながりやすくなります。
そして、やりとりが非対面・テキストで完結することも重要です。初回の接触から打ち合わせまで電話や対面が前提だと、それだけで負担になります。フォームやメッセージで完結する流れであれば、本業の制作を止めずに、自分のタイミングで進められます。対面や電話が得意でない方にとって、これは大きな安心材料です。
なお、送信を自動化する手段もありますが、相手のフォームの形式は一つひとつ微妙に異なり、機械的に送ると形式の差で送信に失敗し、せっかくの機会を逃すことがあります。一件ずつ人の目で確認して確実に届けるほうが、結果的に取りこぼしを減らせます。丁寧に届けることと、数を打つことは、工夫しだいで両立できます。
時間がないときの仕組み化・外注という選択
ここまでの話で「やり方は分かったが、そこに割く時間がない」と感じた方もいるかもしれません。制作で手一杯のときに、リストを集めて一通ずつメッセージを書くのは、確かに負担の大きい作業です。
そこで選択肢になるのが、仕組み化と外注です。仕組み化とは、提案文のテンプレートを用意したり、実績の見せ方を整えておいたりして、毎回ゼロから考えなくて済む状態を作ることです。これだけでも、営業にかかる手間はかなり軽くなります。
それでも時間が足りない場合は、営業の入口部分を外注するという手もあります。たとえば、営業リストの作成や、初回のフォーム・SNSメッセージ送信を代行してもらえば、自分は制作という本業に集中したまま、案件を作るルートを動かせます。外注を選ぶ際は、やりとりがテキストで完結すること、自分の予算に合わせて件数を調整できることを確認しておくと、作る人の働き方に無理なく組み込めます。
ここで意識したいのは、コストを抑えながらある程度の件数を当てる、という考え方です。事業条件に合う相手かどうかを確かめたうえで、コストを抑えて数を打ち、反応があった相手と丁寧に話す。この「コストと件数のバランス」を取れる形であれば、限られた時間と予算でも、自分から案件を作る動きを継続できます。すべてを自分で抱え込む必要はありません。本業の制作に時間を残すために、入口だけ任せるという選び方も、十分に現実的です。
あわせて、営業への苦手意識をほぐす考え方は「営業が苦手な個人事業主・フリーランスへ。まず知っておきたいこと」、個人事業主の営業手段の全体像は「個人事業主の営業方法。何から始めるかを整理する」、SNS DM営業の進め方は「SNS DM営業のやり方とマナー|X・Instagramで嫌われずに新規開拓する」で解説しています。
まとめ
この記事のポイントを振り返ります。
- 制作スキルがあるのに営業で止まってしまうのはもったいない。営業が苦手なのは弱みではなく、やり方が合っていないだけのことが多い。
- 営業に苦手意識を感じる背景には、制作と営業でモードが違うこと、売り込みへの抵抗感、対面・電話への苦手意識などがある。これらは自分に合うやり方を選べば対処できる。
- 営業は「自分を売り込む行為」ではなく「相手の困りごとを解決する提案」と捉え直すとハードルが下がる。課題を見つける視点は作る人の得意分野。
- 実績やポートフォリオそのものが営業材料になる。誰のどんな課題を解決したかを添え、相手に近い事例を見せると効果的。
- 紹介・受け身だけに頼ると波に左右されやすい。自分から案件を作れるルートも併せて持っておくと安定する。
- 制作を大切にする方におすすめなのは、フォーム・SNSでの非対面営業、少数に丁寧に向き合う進め方、テキストで完結する流れ。
- 時間がないときは、提案文の仕組み化や、営業の入口(リスト作成・初回メッセージ送信)の外注も選択肢。コストを抑えて件数を当てる設計だと続けやすい。
作る力は、それだけで大きな価値です。あとは、その力を必要としている相手に届ける手段を、自分に合った形で持つだけです。営業を「苦手なもの」から「作ったものを届ける手段」へと捉え直すところから、始めてみてください。
営業の最初の一歩を、外注するという選択肢
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執筆者:栗原 陽介(TYNコンサルティングオフィス 代表)
BBBメッセージサービス(営業リスト作成・初回営業メッセージ送信代行)の運営者。個人事業主・フリーランスの営業支援に携わっています。運営者について詳しくは 会社案内 をご覧ください。
