フリーランスや個人事業主として独立してしばらく経つと、紹介や既存のお客様からのリピートで、自然と仕事が回るようになることがあります。営業らしい営業をしなくても次の依頼が来る状態は、これまでの仕事ぶりが信頼された証であり、大きな強みです。一方で、この状態には見えにくい危うさもあります。自分では仕事の流れをコントロールできていない、という点です。
この記事では、紹介だけに頼って仕事を回すことのリスクを整理したうえで、「新規開拓をどう始めればいいか分からない」という方に向けて、いきなり全力を出さずに少しずつ始める考え方と、最初の一歩を中立的な視点で解説します。営業が苦手な方でも無理なく踏み出せる順番で進めていきます。
紹介で回るのは、強みでもあり危うさでもある
まず確認しておきたいのは、紹介で仕事が回ること自体は決して悪いことではない、ということです。紹介は、過去の仕事への評価がそのまま次の依頼につながる仕組みです。営業コストもほとんどかからず、すでに信頼関係がある状態から仕事が始まるため、商談もスムーズに進みやすいという利点があります。
ですから、「紹介に頼るのをやめましょう」という話ではありません。紹介は今後も大切にすべき貴重なルートです。問題は、紹介だけに依存し、ほかに仕事を得る手段を持っていない状態にあります。収入源がひとつしかないことのリスクは、どんな事業にも共通します。紹介という一本の柱に全体重を預けていると、その柱が細ったときに支えるものがありません。
「今は順調だから大丈夫」と感じているときほど、この危うさは見えにくくなります。だからこそ、仕事が回っているうちに、もうひとつの柱を少しずつ育てておく意味があります。
紹介だけに頼ることの3つのリスク
紹介に依存した状態には、具体的に次のようなリスクがあります。
リスク①:売上の波をコントロールできない
紹介は、相手の都合で発生します。紹介してくれる人の事業が忙しい時期、人脈が広がりにくい時期には、紹介そのものが減ります。自分の仕事ぶりとは関係なく、外部の事情で依頼の量が上下するのです。
そのため、売上が読みにくくなります。ある月はあふれるほど依頼が来て、次の月はぱったり止まる──そうした波があると、生活設計も事業計画も立てづらくなります。波が来てから慌てて動き始めても、新規の仕事が形になるまでには時間がかかります。
リスク②:単価交渉力が下がりやすい
紹介経由の仕事は、紹介してくれた人の顔を立てる必要があり、価格や条件の交渉がしにくくなる場面があります。「紹介してもらった手前、強くは言えない」と感じて、本来の単価より低く受けてしまうこともあるでしょう。
さらに、ほかに仕事を得る手段がないと、目の前の一件を断りづらくなります。「この依頼を逃したら次がない」という状況では、価格や条件を主体的に決める力が弱まります。選択肢を複数持っていることが、そのまま交渉の余裕につながるのです。
リスク③:取引先を選べなくなる
仕事の入り口が紹介だけだと、来た依頼を受けるかどうかしか選べません。本当はもっと相性のよい分野や、得意な仕事に注力したいと思っても、自分から取引先を見つけにいく手段がなければ、来たものを受け続けるしかなくなります。
結果として、事業の方向性が「自分が進みたい方向」ではなく「紹介で来た方向」に引っ張られていきます。長く続けるほど、この差はじわじわと効いてきます。
なぜ紹介は「自分でコントロールできない」のか
これらのリスクの根っこにあるのは、紹介という仕組みの構造です。紹介は、発生のタイミングも、量も、相手も、自分では決められません。誰かが「この人を紹介しよう」と思ってくれて初めて成立するため、主導権は常に相手側にあります。
自分にできるのは、紹介されやすいように良い仕事を続けることくらいで、それも「いつ・どれだけ紹介が来るか」を保証するものではありません。蛇口を自分でひねれない水道のようなもので、出るときは出ますが、止まったときに自分で開けることができないのです。
これに対して、新規開拓は性質が違います。新規開拓は、自分のタイミングで、自分の決めた量だけ動かせる手段です。「今月は少し依頼が減りそうだから、こちらから声をかける数を増やそう」と、自分の判断で蛇口を開けられます。紹介とは別に、この「自分でひねれる蛇口」を持っておくことが、売上の波を自分でならすための鍵になります。
紹介を否定して新規開拓に乗り換える、という話ではありません。コントロールできない紹介と、コントロールできる新規開拓を、両方持つこと。この組み合わせが、安定した事業の土台になります。
新規開拓は「少しずつ」始めてよい
「新規開拓が大事なのは分かるけれど、何から手をつければいいか分からない」「営業が苦手で、考えるだけで気が重い」──そう感じる方もいらっしゃると思います。ここで大切なのは、いきなり全力でやろうとしないことです。
新規開拓と聞くと、毎日何時間も営業に費やし、断られ続けて消耗する、というイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれません。しかし、紹介でひとまず仕事が回っている今の状況であれば、そこまで追い込む必要はありません。目的は「もうひとつの柱を細くてもいいから育てておく」ことなので、最初は小さく始めれば十分です。
たとえば、「週に1時間だけ新規開拓にあてる」「月に数件だけ新しい相手に連絡してみる」といった規模でかまいません。今すぐ大きな成果を出すためではなく、紹介が細ったときに動かせる手段を、今のうちに用意しておくという位置づけです。小さく始めれば、本業を圧迫することもなく、心理的なハードルもぐっと下がります。
また、新規開拓は一度やれば終わりではなく、続けることで少しずつ手応えがつかめてくるものです。だからこそ、最初から飛ばしすぎて息切れするより、無理のないペースで長く続けられる形にするほうが、結果的に遠くまで行けます。
最初の一歩:何から始めるか
では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。新規開拓の入り口として現実的なのは、次のような手段です。
営業リストを用意する
新規開拓は、「誰に声をかけるか」を決めるところから始まります。やみくもに動くのではなく、自分のサービスが役に立ちそうな事業者を、業種・規模・地域といった条件で絞ってリストにまとめます。このリストづくりに、近年はAIやツールを活用して効率化する方法も広がっています。条件に合う先を効率よく集められれば、その後の連絡もスムーズになります。
リストの精度をどこまで高めるかは悩みどころですが、最初から完璧なターゲティングを目指す必要はありません。まずは条件に合う先をある程度の数そろえて、実際に連絡してみて反応を見る、という進め方が現実的です。
フォームやSNSメッセージで連絡してみる
リストができたら、相手の問い合わせフォームやSNSのメッセージから、自分のサービスを簡潔に伝えてみます。電話や対面と違って、テキストでの連絡は相手の時間を一方的に奪わず、自分も落ち着いて文面を整えられるため、営業が苦手な方でも取り組みやすい手段です。
ここで大切なのは、数を当てることと、一通一通を丁寧に届けることの両立です。送る相手の事業内容を確認し、その相手に合った内容で確実に届ける。この丁寧さが反応率を左右します。
小さく外注するという選択肢
とはいえ、リストづくりや一件ずつの送信を本業の合間に続けるのは、現実には負担が大きい作業です。「やったほうがいいのは分かるが、手が回らない」というのが正直なところだと思います。
そこで選択肢のひとつになるのが、新規開拓の入り口部分を小さく外注することです。営業リストの作成や、初回のフォーム・SNSメッセージの送信を代行してもらえば、本業を止めずに新規開拓の手を動かし続けられます。最初から大きく依頼する必要はなく、少件数から試して、自分の事業に合うかを確かめてから判断すれば十分です。
続けるための仕組み化
新規開拓でいちばん難しいのは、始めることよりも続けることです。本業が忙しくなると、つい後回しになり、気づけば何ヶ月も手が止まっていた、ということになりがちです。続けるためには、根性ではなく仕組みで支えることが効きます。
時間を決めてしまう
「余裕があるときにやる」では、余裕は永遠に来ません。「毎週○曜日の朝1時間は新規開拓にあてる」というように、あらかじめ時間を固定してしまうほうが続きます。短くてかまいません。続くペースであることのほうが、一回あたりの量より大切です。
作業を分けて考える
新規開拓は、「リストをつくる」「文面を考える」「送る」「返信に対応する」といった複数の作業の集まりです。これをひとかたまりで考えると重く感じますが、分解すれば、それぞれは小さな作業です。今日はリストだけ、明日は送信だけ、と分けて進めると、心理的な負担が下がります。
人に任せられる部分は任せる
作業を分けて見えてくるのは、「自分でなくてもよい部分」があることです。リストづくりや一件ずつの送信のような、時間はかかるが本人でなくても進められる作業は、外注に回すことができます。自分は本業と、返信が来たあとの相手とのやりとりに集中する。こうして役割を分けると、新規開拓を無理なく回し続けやすくなります。
外注を使う場合も、やりとりがテキストで完結し、必要なときに必要なぶんだけ依頼できる形であれば、本業のリズムを崩さずに続けられます。コストを抑えながら一定の件数を当て続けられる仕組みを持てれば、紹介とは別の柱として機能していきます。
あわせて、営業への苦手意識をほぐす考え方は「営業が苦手な個人事業主・フリーランスへ。まず知っておきたいこと」、営業を後回しにするリスクは「「営業に手が回らない」を放置するとどうなるか」、個人事業主の営業手段の全体像は「個人事業主の営業方法。何から始めるかを整理する」で解説しています。
まとめ
この記事のポイントを振り返ります。
- 紹介で仕事が回るのは強みである一方、紹介だけに依存すると見えにくいリスクを抱える。
- リスクは「売上の波をコントロールできない」「単価交渉力が下がる」「取引先を選べなくなる」の3つ。
- 紹介は発生のタイミングも量も相手も自分では決められない。新規開拓は自分のタイミングと量で動かせる手段であり、両方を持つことが安定につながる。
- 新規開拓はいきなり全力でなくてよい。週1時間・月数件から、紹介が細ったときに動かせる手段を今のうちに育てておく。
- 最初の一歩は、営業リストを用意し、フォームやSNSメッセージで連絡してみること。負担が大きければ小さく外注する選択肢もある。
- 続けるコツは仕組み化。時間を決める/作業を分ける/人に任せられる部分は任せる。
紹介はこれからも大切なルートです。そのうえで、自分でひねれる蛇口をもうひとつ持っておく。今の仕事が回っているうちに、小さく始めておくことが、将来の安定につながります。
営業の最初の一歩を、外注するという選択肢
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執筆者:栗原 陽介(TYNコンサルティングオフィス 代表)
BBBメッセージサービス(営業リスト作成・初回営業メッセージ送信代行)の運営者。個人事業主・フリーランスの営業支援に携わっています。運営者について詳しくは 会社案内 をご覧ください。
